神戸地方裁判所 平成8年(モ)1337号 決定 1997年2月17日
兵庫県芦屋市<以下省略>
申立人
X
右代理人弁護士
後藤玲子
東京都中央区<以下省略>
(送達場所
神戸市<以下省略>)
相手方
国際証券株式会社
右代表者代表取締役
A
右代理人弁護士
川戸淳一郎
右同
滝田裕
主文
相手方は、本決定送達の日から一か月以内に、相手方が申立人とのワラント取引に際して作成したすべての注文伝票を当裁判所に提出せよ。
理由
一 申立の趣旨及び理由並びに相手方の意見
本件申立の趣旨及び理由は、別紙文書提出命令申立書、同平成八年一一月一二日付原告準備書面及び同平成九年一月二四日付原告準備書面記載のとおりであり(ただし、申立人は、証券取引一般ではなくワラント取引の際作成された注文伝票の提出を求める趣旨と解される。)、これに対する相手方の意見は、別紙平成八年一一月一二日付被告ら準備書面及び同平成九年一月七日付被告ら準備書面記載のとおりである。
二 当裁判所の判断
1 本件の基本事件は、相手方の顧客としてワラント取引をしていた申立人が、相手方は、適合性の原則に反するにもかかわらず、ワラントの仕組み等について何も説明しないまま、虚偽または誤解を与えるような表現とともに断定的判断を示して勧誘し、または無断取引を追認させたと主張して、不法行為または債務不履行を理由として損害賠償を求めている事案であり、本件は、申立人が、相手方に対し、申立に係る文書が民事訴訟法三一二条三号後段に規定する挙証者と文書の所持者との間の法律関係につき作成された文書(以下「法律関係文書」という。)に該当するとして、その提出を求めている事案である。
2 本件記録によると、申立人が提出を求めている注文伝票は、相手方が申立人の売買注文を受けた際にその都度作成する伝票で、顧客名、扱者、受注日時、注文方法(電話、店頭の別)、約定日時、売買の別、銘柄、数量、単価(ポイント数)、為替レート、指値または成行の別、受渡日等個別の売買注文の詳細が記載され、これが取り次がれて右注文に基づく売買取引が執行されるという意味で最も基本的な伝票であることが一応認められる。
また、注文伝票は、証券取引法一八八条(平成四年改正前は一八四条)、証券会社に関する省令一三条一項一号によりその作成が義務付けられているところ、同法一条、五三ないし五五条等に鑑みると、その趣旨は、証券会社の内部統制を可能にするとともに、後日の行政上の監督等の用に供する点にあるものと解される。
ところで、法律関係文書とは、挙証者と文書の所持者の間の法律関係それ自体を記載した文書に限らず、その法律関係に密接に関連する事項を記載した文書であれば足りるが、そのような文書であっても、専ら所持者の自己使用の目的で作成された内部文書はこれにあたらないと解すべきである。
しかるに、右認定事実に照らすと、注文伝票は、申立人と相手方の間の法律関係それ自体を記載した文書ではないものの、右法律関係と密接に関連する事項を記載した文書であることは明らかで、法令によってその作成が義務付けられているから、相手方が専ら自己使用の目的で作成した内部文書であるとはいえない。
したがって、右注文伝票は法律関係文書にあたるというべきである。
3 申立人は、基本事件において、多数あるワラント取引のうち一部は無断取引であり、相手方がその追認を求める際虚偽または誤解を与えるような表現や断定的判断を示した旨主張しており、注文伝票が提出されると、注文日時等の記載内容の正確性を争い、ひいては申立人と相手方の間の取引経過を立証することが可能になるから、注文伝票につき証拠調の必要性を認めることができる。
その他のワラント取引に関しても、説明、勧誘の態様につき争いがあるところ、注文伝票の記載により注文の日時、方法等各取引の具体的事実経過が明らかになり、立証に資する面がある以上、注文伝票の提出が主張事実と関連性を有しないとはいえない。
三 結論
以上により、申立人の本件申立は理由があるから、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 横田勝年 裁判官 永吉孝夫 裁判官 湯川克彦)